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Author:ishiym
 何年も前に社会保険労務士、行政書士の資格を取得し、現在、千葉県社会保険労務士会会員です。
 これから開業の準備のため、基礎知識の整理と業務内容の研究をしておきたいと思います。

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2008/05/04 (Sun) 13:19
私生活上の非行と懲戒処分

 社員が通勤電車内で痴漢を行ったり、路上での些細な言い争いから暴行や傷害に及んだ場合、会社はその社員を懲戒処分に付することができるか。

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 労働者は、労働契約を締結し雇用されることにより、使用者に対して労務提供義務を負うとともに、企業秩序遵守義務を負うことになります。

 そして、使用者は広く企業秩序を維持し企業の円滑な運営を図るために、その雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、当該労働者に対し、懲戒権を行使することができるとされています。

 この企業秩序は、通常、労働者の職場内又は職務遂行に関係のある行為を規制することにより維持しうるものです。

 私生活上の非行については、社員のプライベートな部分であるから干渉すべきでないという考え方と、経営上多大な影響がある場合に看過することはできないという考え方があります。

 しかし、社員が犯罪を犯しそれが広く報道された場合、会社の体面、信用に悪影響を及ぼしたり、他の社員の士気が下がったりして、会社の経営、ひいては存立さえ脅かすことにもなりかねません。

 懲戒処分とは、単なる服務規律違反に対する制裁とは考えられず、従業員の企業秩序違反行為に対する制裁罰であると定義されています。

 一般に、使用者の懲戒権は、就労に関する規律と関係のない労働者の私生活上の言動にまで及ぶものではありませんが、企業秩序に影響を及ぼすなどの場合には懲戒処分をなしうるとされています。

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 富士重工業譴責事件(最高裁第3小判昭和52年12月13日)

「企業秩序を維持確保するため、これに必要な諸事項を規則をもって一般的に定め、あるいは具体的に労働者に指示、命令することができ、また、企業秩序に違反する行為があった場合には、その内容、態様、程度等を明らかにして、乱された企業秩序の回復に必要な業務上の指示、命令を発し、又は違反者に対し制裁として懲戒処分を行うため、事実関係の調査をすることができることは、当然のことといわなければならない。」

 国鉄札幌運転区事件(最高裁第3小判昭和54年10月30日)
 
「(右の規則又は具体的指示・命令)に違反する(中略)場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、(中略)規則の定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができるものと解するのが相当である。」

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 しかし、使用者に懲戒権があるからといっても、それが無制限に行使できるものではなく、行為の程度と処分の重さが問題となります。

 どのような処分がなされるかは、その行為の態様、刑の程度、職務上の地位、行為と処分の均衡等の諸事情を考慮し、判断されることになります。

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 日本鋼管事件(最高裁第2小判昭和49年3月15日)

「営利を目的とする会社がその名誉、信用その他相当の社会的評価を維持することは、会社の存立ないし事業の運営にとって不可欠であるから、会社の社会的評価に重大な影響を与えるような従業員の行為については、それが職務遂行と直接関係のない私生活上で行われたものであっても、これに対して会社の規制を及ぼしうることは当然認められなければならない」
「しかして、従業員の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類、態様、規模、会社の経済界に占める地位、経済方針及びその従業員の会社における地位、職種等諸般の事情から総合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない。」

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2008/05/02 (Fri) 11:33
労働者が競業避止義務に違反

 競業避止義務に違反したら、損害賠償金の請求、退職金の減額や不支給とするなどの措置について

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 企業は、業務上の機密やノウハウ等を守るために、従業員に競業避止義務を課すことがあります。

 競業避止義務は、業務上の機密やノウハウ、特殊技能を身につけた従業員がライバル会社に転職することや、業務上の機密やノウハウ等を使って自らが業をおこし事業を始めることです。

 そもそも憲法では、職業選択の自由は基本的人権として保障されており、競業避止義務が従業員の職業選択の自由に重大な制約をするものであれば、無制限に認められません。

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 裁判例;

 フォセコ・ジャパン・リミテッド事件(奈良地裁判昭和45.10.23)

「競業の制限が合理的範囲を超え、債務者らの職業選択の自由等を不当に拘束し、同人の生存を脅かす場合には、その制限は、公序良俗に反し無効となることは言うまでもないが、この合理的範囲を確定するに当たっては、制限の期間、場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、代償の有無等について、債権者の利益(企業秘密の保護)、債務者の不利益(転職、再就職の不自由)及び社会的利害(独占集中のおそれ、それに伴う一般消費者の利害)の三つの視点に立って慎重に検討していくことを要する。」

 キヨウシステム事件(大阪地裁判平成12.6.19)

「競業避止の内容が必要最小限の範囲であり、また当該競業避止義務を従業員に負担させるに足りうる事情が存するなど合理的なものでなければならない。」

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 退職後の競業避止義務は、在職中の場合とは異なり、何らかの特約といった明文化された根拠がなければ認められないと解されています。

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 裁判例;

 中部機械製作所事件(金沢地裁判昭和43.3.27)

「習得した業務上の知識、経験、技術は労働者の人格的財産の一部をなすもので、これを退職後にどのように生かして利用していくかは各人の自由に属し、特約もなしにこの自由を拘束することはできない。」

 池本自動車商会事件(大阪地裁判平成8.2.26)

「会社の取締役及び従業員は、会社との間で退職後の競業を禁止する旨の合意があるなど特段の事情がない限り、退職後、同業他社に就職し、競業する内容の営業活動に従事したとしても、右行為が当然に不法行為に当たるものではないと解すべきである。」

 センメイ商事事件(大阪地裁判平成11.1.22)

「原告は、当然導かれる義務として、競業禁止義務を負う旨主張する。しかしながら、労働者は、経済活動の自由を有するのであるから、労働契約上退職後の競業を禁止する旨の特約がある場合を除き・・・、原則として、退職後に従前の使用者と競業する内容の営業を行うことも許されると解される。」

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 競業避止義務に関する規定や誓約書の作成において重要なことは、その内容に合理性があるかどうかです。

 合理性がなければ無効となり、何の役にも立ちません。

 では、実際に競業避止義務違反が行われた場合にとりうる措置についてですが、退職金の減額又は不支給、競合行為の差止め、損害賠償請求等が考えられます。

・退職金の減額、不支給について

 退職金規程に、退職後の競業行為をした者には退職金の不支給又は減額をするということを明確に定める必要があります。

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 三晃社事件(最高裁第2小判昭和52.8.9)

「被上告会社が営業担当社員に対し、退職後の同業他社への就職をある程度の期間制限することをもって直ちに社員の職業選択の自由等を不当に拘束するものとは認められず、したがって被上告会社がその退職金規則において、右制限に反して同業他社に就職した退職社員に支給すべき退職金につき、その点を考慮して、支給額を一般の自己都合による退職の場合の半額と定めることも、本件退職金が功労報償的な性格を併せ有することをかんがみれば、合理性の無い措置であるとすることはできない。…すなわち、この場合の退職金の定めは、制限違反の就職をしたことにより勤務中の功労に対する評価が減殺されて、退職金の権利そのものが一般の自己都合による退職の場合の半額の程度においてしか発生していないこととする趣旨であると解すべきであるから、右の定めは、その退職金が労働基準法上の賃金にあたるとしても、所論の同法第3条、16条、24条及び民法第90条等の規定にはなんら違反するものではない。」

 ベニス事件(東京地裁判平成7.9.29)

「退職金の減額支給条件が抽象的であって、一義的に理解できない場合は、規範的役割は希薄なものでしかないのであるから、背信性が強い場合に限りその適用を許すべき。従って、退職金の減額は許されない。」

 東京コムウェル事件(東京地裁判平成15.9.19)

「退職金規定に明示されない重大な就業規則違反等の事由をもって退職金不支給の事由とすることはできない。規定の不備による不利益は、これを制定した使用者において甘受すべきである。」

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・競業行為の差止め、損害賠償請求について

 退職時の競業避止義務を約する特約を根拠に請求することが可能です。

 しかし、誓約書があれば直ちに、競業避止義務違反を認められるというわけではありません。

 その誓約書の内容が、公序良俗に反しない明確で合理的なものであることが必要なのはもちろんですが、誓約書を作成される過程も問われます。

 特に退職時の誓約書は、その内容が客観的に見て一方的に労働者にとって不利である場合、たとえ署名があっても、本当に労働者の自由意志からの行為であるとは判断されないことがあります。

 労働者の退職後の行為を規制する誓約書を有効なものにするためには、誓約書をかわすことによって生じる労働者の不利益に見合った代償措置を講じる必要があるといえます。

 そこで、

・競業避止契約契約の前提となる秘密保持契約でいう秘密の性質や範囲が重要なものに限定されているかどうか、

・その従業員が在職中企業秘密の内容・利用方法・重要性を認識し得る地位にあったかどうか、

・競業を禁止される業務の範囲が在職中その従業員が担当していた職種に限定されるかどうか、

・退職後の競業避止義務を負う期間が不当に長くないかどうか、

・競業避止義務を負わせる場合に、その代償措置が執られているかどうか

などを検討して、真にやむを得ない範囲のものに限定した上で、かつ一定の代償を支払うことで競業避止契約義務を課す契約にすべきです。

 なお、競業避止義務に関する規定や誓約書の無い場合の競業避止義務違反への対応は、不正競争防止法に基づき不法行為として、差止請求権、損害賠償、信用回復の措置という法的措置を取ることは可能です。

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 不正競争防止法第3条;

「 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む。第五条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる。」

 不正競争防止法第4条;

「 故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、第十五条の規定により同条に規定する権利が消滅した後にその営業秘密を使用する行為によって生じた損害については、この限りでない。 」

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2008/04/29 (Tue) 17:03
従業員の仕事中の事故と損害賠償

 従業員が仕事中に不注意で事故を起こし会社に損害をかけたような場合、会社はその従業員に対して損害賠償を請求できるか。

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 労働基準法で、使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償を予定する契約をしてはならないことになっています。

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 労働基準法第16条;

「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」

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 しかし、労働者が業務を遂行する中で会社に損害を与えた場合について、労働関係法令で特別の規定は設けられていません。

 つまり、使用者が、現実に生じた損害について賠償を請求することを禁止するものではありません(昭和22.9.13基発17号)。

 したがって、業務を遂行する中で労働者が使用者に損害を与えた場合、民法の一般原則の規定に基づき債務不履行(民法第415条)または不法行為(民法第709条)として、労働者は使用者に対して損害賠償責任を負うことになります。

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 民法第415条;

「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。」

 民法第709条;

「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

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 労働者が職務の遂行にあたり、必要な注意を怠って労働義務に違反したような場合、契約法の建前からすれば、労働者は使用者に対して、債務不履行にもとづく損害賠償責任を負うことになります。

 しかし、この原則をそのまま適用すると、労働者にとって過酷な事態が生じることがあります。

 使用者と労働者の経済力の差や、事業活動によるリスクはそれにより利益を得ている使用者が負うべきであるという危険責任・報償責任の原則に照らして、労働者の損害賠償責任に対して制約を加える必要が生じます。

 裁判例においては、労働者の義務違反が認められる場合でも、故意や重大な過失があるときに限って損害賠償責任の発生を認めたり、損害賠償責任がある場合でも、請求しうる賠償額を制限したりすることが一般です。

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 損害の公平な分担という観点から;

 使用者が労働者に損害の発生する可能性のある労働をさせ利益を得ていながら、実際に発生した損害を全て労働者の負担に求めるのは不当であること

 使用者の指揮命令のもとに行われる労働において、損害の原因となる状況を労働者自身が除去・回避することは困難であること

 使用者は経営から生じる定形的危険について、保険制度等を通じて損失の分散を図ることができること

などです。

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 労働者が業務を遂行する中で発生した損害について、労働者にのみ責任を負わせることは公平を欠いていると考えられ、損害負担については労使双方に公平な分担を求め、労働者の責任が制限されると考えられています。

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 茨城石炭商事事件(最高裁第1小判昭和51.7.8)

「使用者がその事業の執行につき被用者の起こした自動車事故により使用者の負った損害について求償した事件について、使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被つた場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきであるとして、4分の1を限度として求償を認める。」

 大隈鐵工所事件(名古屋地判昭和62.7.27)

 労働者が居眠りにより操作を誤って機械を破損した事案において、裁判所は、使用者は労働者に重過失がある場合にのみ損害賠償を請求しうるとしたうえ、損害額の2割5分に限って賠償責任を認めました。

 丸山宝飾事件(東京地判平6.10.27)

 貴金属販売店の営業担当者が宝石の入った鞄を盗まれた事案では、損害額の5割につき賠償責任が認められました。

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 なお、横領など労働者が故意に違法行為をおこなった場合には、労働者の責任が制限されることはありません。

 また、労働者が競業避止義務に違反したような場合も別個の問題となります。

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